夢の中のような心地を感じずにはいられないほどの気だるさに羊はあくびを一つ。
言葉を失っていた。
空は晴天なのだが現実を目の当たりにすると、全身が脱力してしまうのであった。
そう、ちょっとしたタイミング違いで、羊は3等羊の金貨を逃してしまった。
ところが、愕然としたか?と言えば、今のところはそうでもない様子で、
普段と変わらぬ生活を送っていた。そうして何となく気が付いていた。
金貨を逃しても生活自体に変化は起こらない。手に入れても同様だろう。
では何が変わるのか?
「名誉だよ。名誉が近づくんだよ、羊君。」そこにいたのは3等羊だった。
「あの、あなたの宿題が間に合わなくて・・・ごめんなさい。」
「羊君、君はオイラのことを3等羊だと言ったね。本当は違うよ。それはオイラの友人だ。
オイラは虎と呼ばれている。だから君も同様に呼ぶように。
それから今回はまだ通過点だし、羊君の取り掛かりが遅かったのは気の毒だが、
これで終わりゃしないのだから、やることはたくさんあるんだから、
立派な羊飼いになれるように心掛けよ。」
虎と名乗る3等羊のそっくりは、羊にはやはり3等羊本人にしか見えなかったのだが、
言葉を失っている羊にとってはそんなことは問題ではなかった。
そうして、虎は羊に新しい本を手渡しながら言った。
「終わらないのさ。君は始まったばかりさ。素人さ。これからさ。冬までさらば・・・。」
虎は渦の中に飲み込まれていった。
一体なんでこんなに騒がしいのだろう、と羊は思いふけった。