象は遠くから羊を見ていた。
羊は夜中に羊を数え、時折天井を見上げ、本を読み、
象の真似をして口笛を吹いているのであった。
羊はとても孤独だが、意外とその孤独を楽しんでいるかのようにすら思った。
孤独が楽しいはずではないということは、象自身よく分かっていることであるが、
楽しいというよりもいつしか慣れてゆくもので、
孤独と友達になったらそれはそれで楽なことだった。
だから羊が孤独であることは象の望むべき子分としての姿そのものであった。
象は少し羊の様子を観察しながら、おもむろに声を掛けてみるのだった。
「羊君、ご機嫌はどうだろう?満たされているかい?」
「象さん、お久しぶりです。
僕は、まぁ何というか満たされない毎日を送っている感じです。
されども満たされないままやるべきことはやっている。
ノルマの羊数えも順調だし、才能がないことを嘆くことはなくなりました。
嗚呼、象さんはいかがですか?」
象は火にあたりながら口笛を吹いていた。
「羊君よ、こんなもんでいいのだろうか、この世の暮らしは。
もっと何だかありそうな気がするんだ。
無事なことは喜ぶべきことではあるが、いつの時代も憂いは絶えないもんだな。」
「象さん、何か悲しいことでもあったんですか?」
羊は象の好きなコーヒーを入れながら聞いた。
「無事な暮らしが毎日続くと、自分が無事なことに疑問を感じるんだ。」