それから象は機嫌良く歌い始めた。
シャラララ・・・。羊は黙って耳を傾けながら少し思っていた。
象は教師のはずなのにだんだん教師らしくなくなってきたし、
孤独感が漂っていた時もあったが基本的には騒がしい迷惑な人だったし、
ナイフのように鋭くギラギラしていてみんなを罵倒していた。
それがどうだろう?
教育活動は低迷中、孤独ではあるが静かで時にお調子者にすらなり、
人を罵倒するどころか自分に厳しくひどく責めるようになっていた。
そして羊は象の問いを象に返すのだった。
「象さん、この世の暮らしはこんなもんだろうか。もっと何だかありそうな気がするんだ。」
象は口笛吹きながら呟いた。
「羊君、俺の妙な口癖が移ってきたのかね?
過ぎ行く毎日を暮らし行く男たちは毎日いそいそと生活しているが、
どこかでこの世の暮らしはこんなもんじゃないだろう、
もっときっと何だかありそうな気がするんだ・・・羊君もそう思うだろう?」
「それは思いますが、自分のことは分らないもんです。
象さんにはもっと何だかあるかもしれませんが、
僕には何にもないような気がしないでもない。可能性を感じないのです。
僕の生活はこれ以上でもこれ以下でもなく、
本当はある程度満たされているのに憂いだけを引きずっているだけかもしれない
と思うこともあります。逆に象さんから見れば何か感じることがあるかもしれませんが・・・。」
象はふっと小さく笑って答えた。
「羊君がどうなろうと、他人には相談せずに己のココロと相談して決めるべきだ。
そうだな。羊飼いになりたいというのは羊君自らの決心であった。
だから後悔しないでやり遂げてもらいたい、と俺は思う。」
「象さんが活動を決心したのは、強い意志があったんですか?」
「いや、ただ好きなだけをことをしているうちにこんな人生になっちまった。
でも振り返ってみると俺には教師が向いているし教師しかできないと思うんだ。
つまりそのあたりのことを己のココロと相談して決めたんだ。」
その日、象のシャラララという響きは遅くまで唸るように続いた。