蟹は羊のことを不思議に思いながらその日も訪ねた。
羊が上の空であくびをしたり、やたら煙草を吸っていたり、
聞いたことのないような歌を口ずさんでいたり、
羊の機嫌が良いのは良くわかるものの、
自分がどのように・・・具体的に言うと友達になりたいのに
手応えがあるようなないような様子に時々不安になった。
また、不安なときは直接聞いたりもした。
「羊君、今までココロ許せる親友っていただろ?
俺は親友とアウトドアに出かけたりしていたけど、羊君って変わっているよね。
それもそれで面白いけど、いつも独りぼっちだろう?
今まで親友とどんな話をして何を考えていた?」
「はて、さて・・・?」
思い出したくないことは考えたくもなく、関係ないことは言いたくない羊は
いつも適当に言葉を濁した。
そしてまさか象との交信があることなど言っても信じないだろうと思い、
それはそれで黙っておいた。
いつの間にか羊は象の好きなコーヒーと煙草を好み、
口笛のメロディを口ずさんで過ごすようになっていた。
象を見るようになって、羊自信は気が付かないまま、
仕草や言葉や価値観は象に似た偏ったものになってゆくことに誰も気づいていなかった。