かつて、犬と呼ばれた少年は立派な青年になって過ごしていた。
多くの友達に囲まれ、高い理想を持たず、ひっそりと暮らしていた。
ダムの底から犬がただひたすらに願うことは、
忘れもしないかつての珍しいタイプの親友であった羊の幸福だった。
羊の幸福とは犬から見ればないものねだりの高望みで、
現実離れしているのが当たり前であり、普通に考えると不可能なことだが、
羊の好奇心を考えると叶わないこともないような気さえしてた。
だからこそ、その羊的幸福論が叶う日が来るときの羊を想像しては微笑んだ。
しかしながら、一般的な幸福を羊は手に入れられるのだろうか、
何処か彷徨うように流離っていないかと心配するとそれもそれで悲しい気持ちになった。
なぜなら、かつては親友だった犬には一般的な幸福を与えてやるチャンスがあり、
なのになぜかそのころの犬は自分の兄さんである象の弟子になり、
羊を引きずり込んで象を探し、そして誰にも告げずに遠い町へ旅に出た。
羊を置き去りにして行方不明になったことを考えると、
犬はどうしようもなくなり冷や汗をかきながら鼻唄混じりでダムに沈んだ。
「さらば、友よ・・・。」