さらに羊は羊を数え、記録していた。
周りにはいつものざわめきがあったにも関わらず、慎重に丁寧に数を数え記録した。
そんな夢中の様子の羊に、象は声をかけられなかったくらいだ。
そして犬から久しぶりの手紙の返事が来た。
手紙には「羊数え、頑張って。」と書いてあった。
以前、犬も羊を数えたことがあり、アイテム一つ持っていた。
その時の苦労を「たいしたことじゃない、普通にできた。」と言うもんだから、
羊はなかなかうまくできない自分を
「自分にはよっぽど才能がないのかもしれない。」と焦りつつ、
考え込む時間があれば羊を数えるように心がけて、
周りには気付かれないように昼間はひっそりと過ごし、
夜中は眠れないので、また羊を数え、数えては記録し、悶々としていた。
「なぁ、羊君よ。いいかい?勝負の時かもしれないな。」
象は邪魔にならない程度の小さな声で話しかけた。
もともと声が大きいから、象は象で気を使っているんだろう。
「象さん。あなたはやっぱりすごい。」羊は象に気付いていたので即答した。
そしてちょっと休憩を取ろうと煙草を咥えた。
象はその煙草に火をつけ、自分も煙草を吸いながら「どうしてそう思う?」と尋ねた。
羊は火をつけてもらったことに、ありがとう、と小さくお礼を言って、
「あなたは大きな名誉があるからです。
羊飼いなんかよりももっと偉大で、才能があるからです。」と答えた。
象は言った。「羊君は成功も失敗も知らないだけだよ。
これからさ。いろいろあるだろう、たぶんね・・・。」
そうして羊の肩をポンと叩き、
「ちょっと焦りすぎかもしれないよ、君は周りをあまりにも見ていない。
俺はたいした努力なんてしてないし、俺は俺の道を歩んでいるだけさ。
まぁ、羊君。成功を祈るよ。そうしたらまた散歩に出かけて月でも仰ごうじゃないか。」
羊は溜息のような深呼吸をして、なんとか自分を落ち着かせようとしていた。
そしてまた気持ちを新たに羊を数えて記録していた。