真夜中に胸騒ぎがした羊はダムに出かけることにした。
丘を越えて長い坂道を越えて、果てしなく続く道をひたすら。
羊はなぜか涙ぐみながら大量の煙草を抱え、両手に花束を持ち歩いていた。
途中坂道の上り口で象が電信柱のように立って待っていた。
象は黙って先を歩き、羊は黙って後を付いて行った。
羊が象を当たり前のように見かけるようになった頃、
ちょうど星の降り注ぐような夜で長い坂道を歩いたことを思い出した。
悲しい気分の時は象はいつでも現れて羊に冗談を言って気分を晴らそうとしてくれて、
時々見返りに羊に煙草をねだるのだった。
とにかくその夜はいつもに増した暗い気分で羊と象は歩いていた。
その夜の象は冗談を言わなかった。
丘の上にあるぽっかりとしたダムに付いた時、
羊は持ってきた大量の煙草と両手一杯の花をダムに投げ込みながら唇を噛み締めた。
時折「僕は認めない・・・。」などと言いながら怒ったように投げ込んだ。
象は咥え煙草で羊を見ながら何も言えずにいた。
ダムの中ではちょっとした儀式が行われいていて卒業式にも似ていた。
と言っても、ダム式の式典は送るのではなく迎え入れる儀式で、
ダム人たちは喜びながらパーティーを開催するのだった。
その日の主役はまだ幼い少年で、少年はただ単純に楽しそうにしていた。
羊と象はしばらくその様子を見たあと、腰を下ろし、煙草を吹かした。
無言が続いたが、先に話しかけたのは羊だった。
「主役の彼が幸せそうで何よりです。
僕が知っている限り、彼の印象は楽しそうな姿をほとんどみたことなかったから、
こうしてダム人となってこれからみんなと仲良く暮らしたいならそれでいい。
でも一つだけ悔やまれるのは、
彼が無二の親友だった僕に黙ってダム人になる道を選んだことだけだ。
僕や象さんのことは忘れてしまうだろう。
かつては親友だったのに、あるいは兄弟だったのに、
全て忘れるんだろうし、忘れたいのだろう。
本人の希望だから仕方ないことだが、黙って行くなんて卑怯じゃないか。」
いつもは喋る象が今日は黙っていて、
いつもは穏やかな羊が怒っているのはおかしな光景だった。
おかしくて仕方ない。羊は涙が出るほど大声で笑い続けた。
夜明け前に象は消え、羊は家に辿りつき眠った。