おかしい、おかしい、と羊は頭を抱え込んだ。
蟹の人生のプランに羊が予想されていて、蟹はそれを実行させるつもりでいる。
羊はもともと自分のココロに誓った象への忠誠を持ちながら羊飼いを目指し、
しかも蟹のプランにあわせることができるのだろうかと思うと少し複雑な心境になった。
蟹は加速するように羊のココロを侵略し、いつも近隣でウロウロし、
積極的に声をかけ、好んで勝手に現れるようになった。
ただし羊は顔には出さないものの、いつも混乱していた。
「世の中で一番尊敬すべき人物は・・・?自らの幸福とは?常識とは?権力とは?」
夜中、羊は声に出して確認していた。
「世の中で一番尊敬すべき人物は僕の兄さんだろう。そこまでは誰にでも分かるだろう。
追いかけても追いつけない偉大な人物だ。しかし・・・。」
羊は水を飲んで溜息ついて、蟹がいないことを確認し煙草に火をつけて、
象の口笛のメロディを鼻唄で歌いながら自分の浮草人生を振り返っていた。
恵まれない家庭ではないのに疑問を抱いた幼少から始まり、
羊の核となる歪みはその頃形成されたものと性質が似ていて、
はっきり言って成長していないようだと反省しながら、蟹の言葉を思い出していた。
「羊君さえよければ・・・もしも俺と友達になってくれなんて言ったら羊君は怒るかな?」
その時の蟹の可笑しいほどの緊張感は何度思い出しても面白いのである。
そして蟹は興味津々に羊を探り、生活に足りないものを寄付し、
非常に熱心に手紙をよこすのである。
「象さん、最近見かけないけど、どうしたんだろう?僕は・・・。」
羊は声に出そうとしてやめた。
羊は自分が象なしでは生きる希望もないとすら思っていたのに、
今となっては象の不在も当たり前になりつつある。
羊は何だか象に申し訳ない気持ちを一瞬持ってしまったのである。
「象さん。しっかりしてください。僕を助けるヒントを下さい。
そして、寂しそうな顔しないでいつものように群集の前に現れて下さい。」
象は少し離れたところで煙草を吸いながら穏やかに羊を見守っていた。