魔法のせいか羊の生活は若干変化が起きて、有機的な空間になりつつあった。
羊は孤独に羊を数える作業が思うように進まず、
このままでは羊飼いから遠ざかってしまうかもしれないと不安にもなった。
羊飼いとは羊社会の階級の一つで、わりと上流階級で、羊の最も恐れ多い集団である。
そんな羊飼いに憧れつつコツコツと羊を数え、幾つかのアイテムを揃え、
全部のアイテムが揃ったら羊飼いになれる。
羊は最近忙しいことを理由に自分の決めた道を怠けつつあった。
怠けてはいけない、やめてはいけない、まだまだ終わらない、言い訳するな、
そういうことを自分自身に言い聞かせながら、蟹に気づかれないように羊を数えていた。
いつの間にか魔法のせいか羊はすっかり蟹と仲良しになってしまった。
しかし魔法は魔法だと羊は分かっていた。
「魔法が解ければなくなる蟹は生涯の友達・親友にはならないだろう。
もしかしたら蟹君の期待を裏切るかもしれないし、蟹君を悲しませるかもしれないし・・・
蟹にはどうか本当の友達を見つけてちゃんとした生活を送ってもらいたい。」
羊は溜息をついた。羊は悲しい過去を思い出していた。
胸の奥で痛み続けるダム人たちの叫び声が今でも消えず、
自分が忘れたくても忘れられない一連の出来事の意味を考え直していた。
そのときダム人たちは少し抵抗したものの、羊を責める者はいなかった。
だからこそ羊は自分の人生を後悔していて、煙草を吸いながらいつも、
自分の身が丈夫だとダム人たちに申し訳ないとすら思っていた。
あれからどんなに月日が経ってもダムでの出来事のことは忘れてはいけないのである。