羊はココロの中で象の姿を思い浮かべていた。
象は怒っているかのように見えたが泣いていた。
昔この街で大切な人を亡くしてしまった象は、その季節が近づく度に大騒ぎをするのだった。
誰も信じないと強く誓って、大声で群集を罵倒し、それが風物詩となり、
やがて人々は象のパフォーマンスに飽き、時代は流れ、流されるままに流れ、
今となれば過去の人となってしまった象は、
誰が見てなくても風物詩となったそのパフォーマンスをやはり続けるのだった。
象には他に出来ることがないのだ。
普通の社会に適応する能力が欠けていることはすでに自覚済みで、
こうやって昔の人になるのも承知の上だった。
そしてコツコツと出版をしたり、演説をしたり、ささやかな役割を果たしているつもりだった。
そんな象はもはや人々の憧れのカリスマではなかった。
テレビを見ていた羊は、蟹の憧れる新しいカリスマが大活躍しているのを目の当たりにして、
ココロ苦しそうに息を飲んだ。
「時代は変わった。
とは言っても、どんなカリスマでも空白期間から奇跡の再出発を果たし大成功している。
象さんにも巡ってくるのだろうか。それとももうお終いなのだろうか。
そんなことを象さん本人には言えないけれど・・・。」